MoCRA統一アジェンダ:FDAの遅れを競争上の優位に変える

2025/10/24
Written by Registrar Corp

FDA MoCRAの2025年春の新しい統一アジェンダは、化粧品業界の多くの懸念を裏付けるものでした。FDAは化粧品GMPの規則制定を「長期的措置(Long-Term Actions)」に転換し、提案された規則日は「未定(To Be Determined)」と記載しました。それは、FDAが今後12ヶ月以内に提案されたNPRM(規則案公表通知:Notice of Proposed Rulemaking)を公表する予定がないことを意味します。アジェンダでは、将来的に化粧品GMPが21 CFR(連邦規則集第21巻:Code of Federal Regulations, Title 21)パート711に位置付けられることも示されているほか、法定NPRMの期限である2024年12月29日をすでに過ぎていることを示し、その遅延の大きさと時期の不透明さが浮き彫りとなっています。

この遅れは本当に現実的な影響をもたらしています。タイムリーなルール作りに頼っている製造業者は、製品の安全性とコンプライアンスを維持しながら、曖昧さに対処する必要があります。待つリスクは明白です。FDAの査察は継続し、安全性に関する社会の注目は依然として高い状況です。躊躇する企業は、この不確実性を「一時停止」ではなく「準備」の合図として捉える競合他社に遅れをとるリスクがあります。

同時に、MoCRA関連の他の優先事項はスケジュール通りに進んでいます。FDAの計画では、2025年12月のNPRMがヘアスムージング製品およびストレートニング(縮毛矯正)製品におけるホルムアルデヒドおよびその他のホルムアルデヒド放出化学物質を禁止すること、2026年5月の香料アレルゲンラベル表示用NPRM、および2024年12月に発行された提案に基づくタルク含有化粧品の標準化されたアスベスト試験を確立するための2026年3月の最終的な規則を引き続き示しています。これらの日付は目標値であり、行政機関がそれらを見逃すことが多々ありますが、GMPが一時的に後回しされている間にFDAの注目がどこに向かっているかを示すシグナルとなります。


MoCRAのGMPは後退したが、休憩ではない

この変化は、FDAの動向をもとに独自のコンプライアンスカレンダーを設定する製造業者やブランドにとって重要な意味があります。「長期的措置」という名称は、GMPが1年以内に出される見込みがないことを意味します。製品の安全性と品質に対する規制上の期待に引き続き直面する一方で、高い水準を守り続けなければいけません。この追加の時間は戦略的に活用できますが、ただしそれは企業が積極的に行動する場合にのみ使えます。

問題なのは、「遅延」を「休憩期間」と誤解することにあります。スケジュールが遅くなったからといって、FDAが精査を緩和することを意味するわけではありません。実際、正式な規則がないと、安全面でパフォーマンスが不十分な企業にとっては主観的になりやすく、評判の失墜のリスクが高まります。要件が体系化される前に先見性を発揮することこそ、業界のリーダーとしての立場を確立する近道なのです。

FDAによるRIN 0910-AJ00(化粧品施設に対する医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)には、現在「アジェンダ段階:長期的措置」「NPRM:未定」となっています。このリストは21 CFR 711を引用しており、NPRMの法定期限(2024年12月29日)を記載しています。この動きは、MoCRAがGMP規則のタイムリーな制定を期待しているにもかかわらず、FDAが1年以内に規制を提案するとは予想していないことを示しています。アイテムは「規制計画に含まれる」ままなので、放棄されたわけではなく、延期されただけです。業界にとっては準備の時間が延びたといえますが、最終的な内容が不明確なままという状況を意味しています。

実際には、この遅延は「一時停止」ではなく「息抜きの時間」と捉えるのが適切です。FD&C法の品質不良の化粧品の規定は依然として適用され、FDAは継続して査察およびコンプライアンス対応の中で製造管理の評価をしています。つまり、近代的で監査可能なGMP体制を整えることが、リスク低減と企業の信頼性を示す最も確実な方法です。最終的な規則が整うまでの間も、企業側の取り組みが問われています。


MoCRAの優先事項はまだ前進している

GMPの進行は遅れているものの、MoCRA(化粧品規制近代化法)の他の部分は前進しています。以下の取り組みは、FDAがどの分野に力を入れているか、また企業が今後の規制にどう備えるべきかを示すものです。どれも、FDAがどのような視点で取り締まりを強化していくかを示す早期のサインといえます。

ホルムアルデヒド禁止:次の主要な製品安全改革

FDAのRIN 0910-AI83は、2025年12月にNPRMを公表予定としています。その内容は明示的で、加熱を伴うヘアスムージング製品およびストレートニング製品において、ホルムアルデヒドやFA放出化学物質(メチレングリコールなど)の禁止を目指しています。これは美容室での健康被害への懸念が長年指摘されてきたことへの対応です。科学的データや曝露リスクに基づいた詳細な議論が想定され、公衆衛生の観点から強調される見込みです。サロン関連製品を扱うブランドは、NPRMの発表前から成分表示や施術プロトコル(加熱温度・換気など)への監視強化を受ける可能性があります。早期に対応を始めないと、規制施行後に販売停止やリコールに追い込まれるリスクもあります。

香料アレルゲン表示:見落とされがちなコンプライアンス課題

香料アレルゲンのラベル表示は、MoCRAの中でも注目度の高いテーマのひとつです。RIN 0910-AI90に基づき、FDAは特定の物質を香料アレルゲンとして特定し、化粧品ラベル上での開示を義務付ける要求をする計画だと述べています。2025年春の統一アジェンダでは、2026年5月のNPRMにて公表予定としています。このスケジュールはMoCRAの当初の法定目標から大きく遅れていますが、依然として計画自体は進行中です。特に原材料レベルのサプライチェーン整備には時間がかかるため、最終ルールを待ってからでは間に合わない可能性があります。印刷物やラベルの切り替え準備を早めに進めておくことが重要です。

タルクおよびアスベスト検査:製品安全における次の大きな転換

短期的な優先事項の最後は、タルクとアスベストの試験に関するものです。FDAのRIN 0910-AI82は、タルク含有化粧品中のアスベスト検出のための標準化された試験法を義務付け、関連する品質不良規定を追加するものです。規則案は2024年12月27日に公表され、アジェンダでは最終規則が2026年3月に予定されています。PLM(偏光顕微鏡法:Polarized Light Microscopy)やTEM(透過型電子顕微鏡法:Transmission Electron Microscopy)などの特定の試験法や、記録保持義務が予想されます。これらに準拠しない場合は、品質不良と認定されるリスクがあります。試験機関の能力と試験法のバリデーション(妥当性確認)が、これまで以上に重要になります。今すぐ行動して試験インフラを整備する企業は、法執行が始まるずっと前に準備が整うことになります。 

遅延の理由とその意味は

この遅れは、当然の疑問を提起します。何が原因なのか? ある取り組みが「長期」の欄に移行される背景には、単一の理由しかないということは稀です。むしろ、複数の要因が重なって寄与している可能性が高く、それぞれが業界の計画に対して異なる示唆を持っています。これらの要因を理解することは、企業が次にFDAの監視の目がどこに向かうかを予測するのに役立ちます。

  • 処理能力と順序付け:FDAは、タルク試験法とホルムアルデヒド(どちらも影響の大きいリスク削減の取り組みと認識されている)については前進させている一方で、GMP(利害関係者への影響が大きく、分野横断的で複雑なシステム規則)については、その形成により長い時間をかけているようです。企業は、この優先順位付けがFDAの限られた内部リソースを反映していると想定すべきです。
  • 範囲と調和に関する質問:ISO 22716との整合性、微生物学的管理、環境モニタリング、水道システム、サプライヤーの適格性、米国規則がリスクベースの柔軟性を許容するのに対してどの程度規範的であるべきかについての議論が予想されます。この不確実性により、早期にグローバル基準に準拠することが最も安全な道となります。
  • 経済的重要性:この項目は「経済的に重要(Economically Significant)」とマークされており、これは通常、より詳細な分析と省庁間のレビューを招き、タイムラインをさらに引き延ばすことになります。経済的影響が大きいほど、公表前に追加の精査が行われることを意味します。

これらのシグナルを無視すると、コンプライアンスよりもはるかに多くのコストがかかる可能性があります。規則が最終化された後の遅れた方針転換は、コストのかかる改修、文書の全面的な見直し、生産の遅れにつながるでしょう。この教訓は明白です。規制が到来したとき、システムの成熟度への早期の投資は、飛躍的な成果をもたらします。

MoCRA遅延を戦略的に使う

この遅れは、FDAが正式な基準を設定する前に、自社の体制を強化するための機会を提供します。以下のステップは、企業が前進する勢いを維持し、規則が最終的に到来したときに遅れを取らないようにするのに役立ちます。この期間を利用して、測定可能な勢いを生み出してください。ここでの各アクションは、査察への不安を軽減し、後の監査をよりスムーズにすることにつながります。

  1. 実用的なGMPギャップ評価の実施現在の品質システムを、将来の21 CFR 711の枠組みの柱となり得るもの(経営陣の責任、変更管理、文書管理、トレーニング、サプライヤー適格性評価、生産管理(保存システムや水を含む)、環境モニタリング、試験室管理、苦情処理、およびCAPA(是正措置・予防措置:Corrective and Preventive Action))と照らし合わせてください。ISO 22716を基準点として使用し、製品の保存、工程内衛生、施設設計など、多くの化粧品会社がまだ十分に発達していない微生物管理に特に注意を払ってください。
  2. サプライヤーネットワークのストレステスト(耐性試験)の実施MoCRAはすでに、ブランドに対し、誰が責任者であり、情報がどのように流れるのかを明確にすることを求めています。GMPの遅れを、品質協定を引き締め、入荷原料の管理を実施し、重要な成分や包装資材の代替サプライヤーを認定する機会として捉えてください。
  3. データと文書管理体制の強化今後の検査では、一貫性とトレーサビリティ、すなわち、実際にループをクローズ するバッチ記録、逸脱、調査、CAPAを探します。システム、または契約製造業者のシステムが大量の場合は、ルールによって時間的制約の下で移行が難しくなる前に、リスクの高いワークフローのデジタル化を検討してください。
  4. 「査察準備OK」な行動の試行最終的なGMP規則がなくても、FDAは品質不良の化粧品を査察し、措置を講じることができます。明日にも調査官があなたの最もリスクの高い製品をサンプリング(抜き取り)できるように行動してください。模擬監査、記録検索訓練、安定性や微生物トレンドのレビューは、迅速に修正可能なギャップを明らかにする簡単な訓練です。

これらの各ステップは、不確実性を進歩に変えます。それらを実行する企業は、MoCRAの新しい期待に適応することをまだ学んでいる業界の説明責任とリーダーシップを示しています。


90日間コンプライアンス・スプリント

企業は、目に見える進歩を遂げるために新しい規則を待つ必要はありません。以下のアクションは、即時のリスク低減と長期的なコンプライアンス上の優位性を生み出すことができます。このチェックリストの一部でも完了することは、主体性を示し、規制当局が注目したときにあなたのブランドを先進的であると位置づけることになります。

  1. 部門横断的なGMPスプリントを立てる
    品質、R&D(研究開発:Research and Development)、オペレーション、規制、調達の各チームを集め、水システム、保存戦略、微生物トレンド、逸脱/CAPAの衛生状態(管理状態)といった高リスク分野に取り組む短期プロジェクトを実施します。ISO 22716を基準として使用し、すべての修正について実施前後の証拠を文書化します。
  2. 香料フレグランス成分の棚卸しと、可能性のあるアレルゲンのマッピング
    香料メーカーから最新のアレルゲンに関する声明やIFRA(国際香粧品香料協会:International Fragrance Association)証明書を入手します。FDAがアレルゲンリストとしきい値を提案した際にラベルの再デザインを迅速に実行できるよう、PLM(製品ライフサイクル管理:Product Lifecycle Management)/ERP(企業資源計画:Enterprise Resource Planning)システムで潜在的なアレルゲンにタグ付けします。
  3. ヘアスムージング製品SKUおよびストレートニング製品SKUを監査し、再処方を開始する
    ホルムアルデヒド遊離システムを特定し、代替化学物質の評価を今すぐ開始します。処理時間、熱、換気など、処方変更後の変更点を説明するサロン向け教育資料を作成します。
  4. タルク試験法と試験機関の事前適格性評価
    仕様書とCOA(分析証明書:Certificates of Analysis)を提案されている試験法(例:PLM、TEM)に適合させ、規則の方向性と一致する記録保持SOP(標準作業手順書:Standard Operating Procedures)を構築します。最終化間近のボトルネックを避けるため、検査機関を今すぐ確保してください。
  5. MoCRAの義務をしっかりと維持すること
    隔年の更新を含む施設登録および製品リストの義務は中断されません。60日間の更新を維持し、重篤な有害事象ファイルを保存し、市販されているすべての製品の安全性の実証を文書化します。

完了した各タスクは、自信と測定可能な準備体制を構築します。この考え方を採用するチームは、単に規則を満たすだけでなく、他社が従うベンチマーク(基準)を定義することになるでしょう。


規制上の遅延に基準を見出す

直感に反するかもしれませんが、戦略的に作業を順序付けるために使用した場合、遅延によって組織のコストを節約できます。以下のアプローチは、遅延を長期的な利点に変換するのに役立ちます。これらは理論上の利益ではなく、時間の経過とともに積み重なるオペレーションの最適化です。

  • 強制される前にGMPを引き上げることで、リコールと執行のリスクを緩和します。
  • 香料アレルゲンの更新を別途計画されたデザインアップデートとあわせておこなうことで、ラベル変更の波を適正な規模にします。
  • タルク法の検査期間の場所を早期に確保、固定し、有利な料金とスケジュールを確保します。
  • 1つのサイトまたは製品ファミリーでデジタル品質記録を試験的に導入し、より広範な展開の前にROI(投資収益率:Return on Investment)を実証します。


GMPがついに導入されるとき、一時停止ではなく準備期間として扱っていた企業は、より迅速、かつ低コストでコンプライアンスを遵守する準備が整います。さらに重要なのは、業界の他の企業が部分が追いつこうとする中、一貫性と先見性のモデルとして先に立つことができるのです。


今後の方向性:業界を追いかけるのではなく、リードせよ

メッセージは明確です。GMPは新しい期限が定められずに遅れていますが、MoCRAはタルク検査、ホルムアルデヒド禁止、香料アレルゲン表示など、他の影響の大きい分野では前進しています。この期間を利用して、オペレーションの検査準備、ラベルの変更準備、サプライヤの監査準備をしましょう。そうすることで、21 CFR 711が最終的に施行されるとき、あなたの組織はコンプライアンスだけでなく、競争力も強化できる体制を整えることができます。


最も成功した企業は、単に対応するだけでなく、リードすることでしょう。準備への各投資は、信頼性と信頼に根ざしたアイデンティティを構築します。FDAの規則が施行されても、これらの企業はあわててコンプライアンスの順守に努めることなく、信頼と競争力をうみ出します。

原文:The MoCRA Unified Agenda: Turning FDA’s Delay Into Competitive Advantage
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CBEC中川 泰
FDAブログ
中川 泰

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